科学と非科学
その正体を探る

中屋敷均著
講談社現代新書
 

 最近「科学的」という言葉をよく目や耳にします。「科学的」という言葉が付くだけで、様々なものに魅力が溢れだす感覚を覚えるのは、私だけではないはずです。「科学的」な睡眠、「科学的」な勉強法…など科学への信憑性が増す一方で、非科学的なものへの眼差しは厳しくなるばかりです。しかし、「科学的なもの」は「非科学的なもの」よりも本当に優れて、完全なのでしょうか?
 認定講座には、保育・教育現場の実践家が数多く参加されています。私がスタッフとして参加したときに、ある参加者の方が帰り際に伝えてくださった言葉が印象に残っています。「講座を受講して、これまでやってきた実践が科学的に正しいとわかって安心した」というものです。
 本書には、動力飛行機製作に没頭し成功を収めたライト兄弟、その2人に大きな影響を与えた“ドイツの滑空王”リリエンタール兄弟の話が登場します。著者は、彼らは何千回もの実験を行い、その過程での科学的アプローチは大切だったと前置きしたうえで、「航空力学によって理論的に飛行が可能であることが証明されたから、人は飛行機を作ったのではない(中略)“分からないこと”を含んだまま、人は飛んだのだ。」と記しています。つまり、科学的かはわからない(非科学的な)まま、飛びたいから、飛んでいたのです。
 「これをするとなぜか子どもが元気になる気がする」という実感は、誰もが持たれていると思います。子どもを元気にしたいから、とにかく続けてきた…そんな隠れた実践に科学が追いついて、誰もが知る「科学的」実践になるというケースもあるのだと強く感じます。本書は、信じて実践を続けよう!と勇気を与えてくれる一冊です。

 
日本体育大学体育研究所
助教 田中良