“三高”を紐解く

 私たちヒトが出生して成人になるまでの発育を数値化することで、目の前の子どもがどれぐらいの発育途上なのか、望ましい発育をしているのか、などということの評価ができます。子どもたちがたまに会う親戚から「大きくなったね」と言われるように、身長はもっともわかりやすい発育の指標です。わが国では、学校での身体計測において身長と体重は明治時代からずっと計測が続けられ、文部科学省のホームページから全国平均値を誰でも見ることができます。こうしたデータは非常に貴重なものですが、身長と体重だけで身体発育の全てが明らかになるわけではありません。
 私たちの研究室では、身体の中身である骨や脂肪、筋肉の量を数値化して、それらがどのように発育に従って変化して行くのか、男女での違いはどうか、などを調べています。ごく微量のX線で全身を計測し、そこに含まれる骨、脂肪などの身体の成分の重量を計算するDXA装置を用いています。これらの結果から、特に運動をすることによってどのように身体が変わっていくかが明らかになってきます。私の勤務する体育・
 筆者の大学のゼミでの話ですが、バブル全盛期の若者は今の学生の親くらいなのです。実は、1980年代末のバブル景気全盛期に、“三高”という言葉が流行った経緯があります。“高学歴”、“高収入”、“高身長”の男性のことであり、女性の主流層が結婚相手の条件にこの三高を求めたようです。しかし、何故高身長なのでしょう。高学歴、高収入まではバブル期を迎えた日本では、企業にとって高学歴の人材は必要であり、必然的に高学歴の人材は出世による高収入が得られることになります。よって、裕福で洗練した生活に憧れる女性にとっては高学歴、高収入の男性を求めたがることに少しは理解します。しかし、イケメンでなく高身長というところに違和感があり、ここに高身長の持つ特別な理由があるのではと考えました。
 そこで筆者は先ず高身長と高収入についてその関係を探ってみました。実は、欧米の研究(Persico et al, 2004)では、身長が高い人の方が低い人より所得が高いことが報告されていて、このことが「身長プレミアム」と名付けられています。このような研究は欧米で多く、残念ながら日本では少ないようです。さらに、そのルーツを探っていくと、世界的に20世紀に入り身長は格段と伸び、ここに定期的な栄養摂取であるたんぱく質を十分に摂取できる環境は裕福な環境であることが見えてきたのです。もちろん、一世代でたんぱく質を多くとったから身長が高くなるわけではなく、世代間に繋がる遺伝子の影響で、現代科学で明らかになりつつあるDNAのメチル化現象(プチ進化)がその鍵を握っているのです。この延長上に裕福な環境が栄養摂取を高め、高身長に結びつき、高学歴で高収入へと連鎖していることに結論付けた次第です。
 

愛知工業大学大学院経営情報科学研究科
教授 藤井勝紀