運動が育むものは体力だけじゃない!

 2000年頃から子どもの体力低下や身体活動減少が叫ばれ、子どもの運動・身体活動を促進する活動が徐々に増えてきた。一方で体力測定値の改善ばかりに目がいきがちといった問題もある。事実、スポーツ庁の体力・運動能力・運動習慣等調査結果が公表された際の新聞各社の記事は、測定値の順位や記録に関するものばかりであり、関連分析の結果や教育現場での特徴的な取組はほぼ取り上げられていない。自治体においても、うちの県は、市は全国より高い低いといった議論に終始しているケースが多い。体力の向上は確かに重要課題である。しかし、本質的には生涯における活動的生活習慣獲得や様々な行動面・心理面での成長を促すことが重要であり、それが長期的な社会の体力改善につながるのではないだろうか。
 我々の研究では、幼少期に体力の高い子どもは、物事への意欲が高い、協調性がある、やり抜く力が高い傾向にあることがわかっている。さらに自分自身への自信や学業成績に関しても関連性が認められる。これらの要素は、教育現場における重要命題であり、基本的生活習慣と並んで保護者が子どもに求めることの上位に位置付けられるものばかりある。つまり、子どもの運動や身体活動の重要性が認知されてきた現在、単に体力向上だけでなく多くの教育的課題や発達課題に運動が有効であるということを我々は共通理解しなければならない。特に、幼少期においてはアスリート育成や競技力向上ではなく、教育として、またヒトの健全な発育のために欠かすことができないものであることを理解し、運動を通して育むべきことを常に頭に置いて指導、教育にあたって欲しいと思う。
 

名古屋学院大学 中野貴博