幼稚園や保育園の運動会で跳び箱やマット運動を見せることは危険でしょうか?また、このような運動は必要でしょうか?さらに、どの程度までなら安全でしょうか?

 幼少期の運動の意義として、多様な動きを体験することがあります。飛び越える動きや転がる動きは子どもたちが体験してほしい多様な動きの一つです。こうした動きは発育が進んで身体が大きくなったり、柔軟性が低くなったりした時期には体験しにくくなり、恐怖心が出て嫌いになってしまう場合もあります。
 ところで、跳び箱は小学生の体育の時間のけがの原因として昔から指摘されており、平成29年度の「学校の管理下の災害」においても全国で体育の時間に発生した78088件の負傷のうち、跳び箱による負傷が15183件報告され、そのうち骨折が5826件、捻挫が5188件、打撲が3385件となっています。また全体のほぼ2/3が上肢の負傷です。一方、マット運動での負傷は5265件で、最も多い負傷部位は頚部で2062件となっています。幼稚園では同様の統計が示されていないため、幼児にとっては負傷の危険がない、というエビデンスを提示することはできません。
 前述のように、幼少期の運動の意義である多様な動きを「体験すること」は、より高いレベルを求めることや、競わせることとは異なります。従って、跳び箱なら高くない跳び箱に手を着いて越える、という基本動作をきちんと実行できることが目的です。また、マット運動では横に転がることから始めて、次はしゃがんだ姿勢や座った姿勢から首を前屈して身体を丸くして前転する、あるいは後転する動きができることが目標です。
 跳び箱を積み重ねて、より高い跳び箱を飛び越えるのを競わせることや、走ってきた勢いでマット上で前転させるような動きは危険であり、さらに競走としてそのような動きを速く行うように促すのは本来の目的ではありません。運動会でクラス対抗リレーのような形でこれらの運動を組み込むことには確かに危険が伴います。1人1人が自分でできる速度で、動きができることを確かめることで十分かと私自身は考えます。それ以上は、体操選手を養成するクラブでも良いのではないでしょうか。
 

(回答者)
早稲田大学准教授 鳥居俊