自然を味方にして子どもの主体性を育てよう!

 鹿児島県の離島である屋久島。世界自然遺産の島の南側に、1~5歳までの園児が通う「あゆみの森こども園」がある。設立して10年。この園の運営のためだけに学校法人を設立し、当初は幼稚園としてスタート。平成27年度から幼保連携型認定こども園となった。新たに生み出す園だからこそ、未来にむかって屋久島に生まれ育つ子どもたちのために「森の活動」を柱に置いた。
 とはいえ、幼児向けの野外保育については、関係者すべてが素人で、森に連れて行けばいいのかといった幼稚な議論しかできない状況だった。その時出会ったのが、日本野外推進協会が展開する幼児向けの野外保育プログラムである「ムッレ教室」。スウェーデンで50年ほど前に誕生。そのリーダー研修を受けに行き衝撃を受けた。自然は論理的で、一つひとつが役割をもって生き、その繋がりこそがエコロジーで、そのことを真正面から幼児に伝える手法がそこにあった。まずは手探りで活動を始めることにした。
 「先生、やること終わったから遊んでいい?」と森で子どもたちから言われ、頭を抱えたことを思い出す。「屋久島環境文化研修センター」で年間10回程度活動を行なっている。当初の保育案は野外の活動らしくすることに精一杯で、自然の循環の何をどう伝えるか、子どもたちの好奇心をどう刺激し主体的な活動に作っていくか、毎日の保育にどう繋げるかといった視点もなく、今思えば、子どもたちにとっての「遊び」にはなっていなかった。そんな失敗の中で気づいたのは、自然の中の「遊び」とは、知的好奇心をもって探求に値する素晴らしい自然という世界の中で、自らの五感を思いきり働かせながら、疑問を感じ、発見し、共感共有しながら活動することなのだということだった。
  よく春にするのが匂いの活動。「チョコレートの匂い」「おかあさんの匂い」「こおろぎのうんこの匂い」といった具体的な匂いを森に見つけに行く。園児は匂いに非常に敏感で、彼らが興味をもちそうな匂い探しを提案すると、森の中であらゆる自然物の匂いをかいで歩き始める。もちろん正解はない。時には各自に蓋つき容器を渡す。容器に入れておくと匂いが凝縮され他の友達とも共有しやすい。活動するうち、葉っぱの匂いが一つひとつ違うこと、実をつける木の葉っぱは実と似た匂いがすること、非常に不快な匂いを出す葉っぱがあること等を発見し教えてくれる。自分の探した匂いを一緒に共有共感してもらう経験を重ねると、自分の五感への信頼が育つ。その経験は、子どもたちの主体性の確立に実は大きくつながっている。知的好奇心を刺激した野外保育は、子どもたちの主体性の確立につながることをこの数年間の活動で大発見することができた。
 自然という多様な世界の中で思いきり五感を働かせていくことは、自分の原始的な感覚に対しての信頼を醸成し自分を発見する。それは大人も同じ。ぜひ森へ出かけ、ありとあらゆるものの匂いをかいでみてください。
 

認定こども園あゆみの森こども園 園長 永留嵯良子 (2018年8月受講)

岩の表面に生えたコケの世界をルーペで楽しむ

いろいろな臭いを集めようと歩く