子どもたちの想像の世界からバレエの作品を創る

 横浜市青葉区にあるバレエスタジオを主宰しております。現在、3歳から70歳までの生徒たちが日々、バレエを楽しみながらレッスンに励んでいます。私自身、バレエ教師になり35年になりますが、子どもたちにバレエを通して、何を伝えれば良いのか、常に模索しながら指導をしてきました。バレエとは一般的には、トゥシューズを履き、きらびやかな衣裳を着て優雅に踊る芸術舞踊。バレエ作品でイメージするのは「白鳥の湖」「くるみ割り人形」ではないでしょうか?これらのバレエ作品は、日本の伝統芸能である能や歌舞伎と同様に決められた“型”があります。このため、バレエスタジオでは教師が子どもに一方的に“型”を教えるような指導が、どうしても多くなってしまいます。もちろんバレエにおいて“型”はとても大事ですが、もっと子どもが伸び伸びと踊れるバレエはできないものか考えていました。数ある習い事の中でバレエを選んだのですから、バレエを大好きになって、楽しんでもらいたいものです。
 では子どもにとって楽しいバレエとはなんでしょうか。どんな題材ならば良いのでしょうか?考えていると、スタジオの子どもたちが休み時間に「ニャーニャー」と、鳴きまねをしながら、床を這い、お互いにねこになったつもりで、大声で笑いながら遊んでいました。その様子を見て、これだ!と思いました。子どもの頃にやった、「ごっこ遊び」です。子どもたちが想像の世界に入り、あるものになりきって表現する楽しさ、これとバレエを融合させるというアイデアから「オリジナルバレエ」が生まれました。
 オリジナルバレエでは、まずは子どもたちが興味を持ちそうな題材を決めます。例えば題材が「花の妖精」ならば、子どもに「どんなところで寝ているの?そこはどんな匂いがするの?」「妖精はどんな色の服を着てるの?」など具体的に言葉かけをして、花の妖精から広がるイメージを問いかけます。すると「赤」「ピンク」「甘いにおい」… みんな、それぞれ自由に考えたイメージを答えます。また絵本や図鑑を見たり、実物の花を手にするとよりイメージがわいてきて、子ども達の目の輝きが変わってきます。このようにして、子どもたちに妖精のイメージが広がってきたところで、「妖精になって花を咲かせる魔法をかけてみよう」と誘いかけると、子ども達は思い思いのポーズを考えます。「虫たちを呼びかける魔法のポーズ」、「雨を降らせるポーズ」など。そこで、実際にみんなで近所の山へ出かけ森林の匂いや、風を感じながら自然の中でイメージしていきます。みんな「花の妖精」になりきっていますから、すごく楽しそうです。
 そして、本来の「ごっこ遊び」と大きく違うところは、最後に人前で披露すること。大きな舞台で、音楽や衣裳や照明が加わり、世界で一つの自分だけのバレエの作品として、みんなに見てもらえるのです。これほどぜいたくな「ごっこ遊び」はどこにもありません。
 オリジナルバレエを創る経験を重ねながら中高生になると、自分で題材を決め、ストーリーを作り、振付、衣裳、照明、音楽など、全体の演出まで全て考え、バレエの作品を創りあげ、それを自分で踊り込んで披露します。それぞれの感性があふれていて、とても見応えがあります。
 これからの社会を強く生き抜くためには、自分自身の感性を表現する力は必ず大切になるはずです。そのために、「オリジナルバレエ」が役立つとすれば、バレエ教師としてこれほど幸せなことはありません。
 

 
高山まなみバレエアカデミー主宰
高山まなみ(2018年受講)